対象:
一般職場で働く女性労働者、事業主、労務担当者、産業保健スタッフ、フェムテック事業者等
本指針でエビデンスを検討したデジタルデバイスアプリケーション:
医療機器ではないソフトウエアサービス、つまりnon-SAMD*を対象に、どのデジタルデバイスに科学的根拠が証明されているのか、検討しました。
推奨レベルを作成し、職場で推奨できるか示しています。判定保留は、まだエビデンスの蓄積がこれからの領域です。
*Non-SaMD(ノンサムディー)とは、健康増進などの目的で利用されるデジタル技術で、Software as a Medical Device(SaMD)の非医療機器を指し一次予防が目的のデジタルデバイスアプリケーションであり、病気を治療するためのアプリケーションではない。
デジタルデバイスアプリケーションのレビュー領域は6つ:
- 月経随伴症状(機能性)*
*子宮や卵巣に明らかな異常がないにもかかわらず、月経期や月経直前に強い腹痛や腰痛、頭痛などの症状が現れる病態 - 運動(身体活動・体重管理・座位)
- 労働生産性(身体活動の促進及び座位行動の減少による)
- 不眠
- 禁煙
- 育児 介護についても初期段階においてリサーチしましたが、検索時点でデジタルデバイスアプリケーションの研究がほとんどなかったことから、育児のみ
*栄養については、プレコンセプションなど就労世代の女性の重要な健康課題ではあるものの、糖尿病患者を対象としたもの、体重、体脂肪率や筋肉量などとのマルチコンポーネントのアプリが多く、今回対象から除いています。また、うつなどのメンタルヘルスについては、AMED事業の榎原班で対応しているため、同じく対象から除いています。
デジタルデバイスアプリケーションのレビュー組み入れ基準:
採用基準
- 健康人を対象とした研究
- 健康増進を目的としたデジタルデバイスを対象にした研究
- 労働者が含まれている研究
- 就労世代の女性が含まれている研究
- 原著論文であること
除外基準
- 患者を対象とした研究
- こどもを対象とした研究
- 学生を対象とした研究
- 高齢者を対象とした研究
- こども、学生、高齢者を対象とした研究
- 動物実験
- 病気の治療を対象としたデジタルデバイス
- 遺伝子、ゲノムなどを対象とした研究
- レター、コメンタリー、プロシーディング、プロトコール論文
チェックリストは最終38項目で点数が高ければ取り組みが進んでいる:
チェックリストの原型は、2008年7月に日本産業衛生学会の就労女性健康研究会と労働衛生国際協力研究会が作成した男女労働者のための健康職場づくりチェックリスト38項目です。さらに、2018年度に経済産業省が行った「働く女性の健康推進」に関する実態調査の結果をもとに、働く女性への配慮・サポートに関する21項目を参考にして34項目のチェックリストを作成しました。
チェックリストは、現代の就労女性の産業保健の重点領域を反映しており、①職場の環境整備、②妊娠・育児支援、③疾病と仕事の両立支援の3つの領域から構成されています。
職場の環境整備には、働く女性のキャリア構築に向けた教育機会の提供、職場風土の醸成、ハラスメント防止に向けた取り組み、相談窓口の設置などが含まれます。また、妊娠・出産・育児・介護といったライフイベント時に関連する法律の遵守や、疾病の治療のための柔軟な勤務体系と傷病手当などの情報提供、産業保健スタッフとの連携なども重要です。
指針作成の歴史的背景としては、1998年に男女共同参画の視点から職場づくりのチェックリストが作成されたことがあります。その後、時代の流れを受け、月経随伴症状や更年期障害、不妊治療、さらに就労世代に乳がんが多いことなどを考慮し、現時点で重要課題であると考えられる3つの領域が設定されました。
また作成したチェックリストは加点方式で、点数が高ければ高いほど、職場での取り組みが充実していることを示します。この点数が高いことで女性が離職せず、職場に定着するのか、正職員の女性割合、管理職の女性割合について妥当性検証をおこなっています。
妥当性検証の内訳:
1) 労務担当者に対して:
日本国内の東京証券取引所上場企業(92社)、秋田県内企業(534社)、インターネット調査(1700社)の労務担当者を対象に、チェックリストの総得点と管理職、正社員、退職者の女性割合、男女別の継続勤務年数、就労女性のバーンアウト等との相関を検討しています。
2) 就労女性に対して:
インターネットリサーチ会社に委託し、20歳から69歳の就労女性を対象に、年齢階級別(5歳刻み)に300名、総計3000名に対してチェックリストの総得点と就労満足度、離職意向(バーンアウト)、労働生産性(プレゼンティーズム)等の項目の得点と相関係数を算出し、回帰モデルを用いた統計学的な検討も行いました。
3) 産業医に対して:
学会や講演会などに参加した約200名を対象に、slidoのリアルタイム投票システム(web)を用いてそれぞれの項目の重要度を星5点評価で回答を求めました。
チェックリストの開発に際しては、女性を積極的に雇用している12社の企業から成る外部組織委員会を設立し、Patient and Public Involvement(PPI) の立場から助言やアドバイスをいただきました。
PPIは、医療やヘルスケア研究の分野で用いられる概念で、患者や一般市民を研究プロセスに積極的に参加させることを指します。これは、医療や研究の質を向上させ、一般の人々にもわかりやすい形で研究結果を伝えるために重要な参画です。