職場でのデジタルデバイスの活用とその効果

 職場で職員が体重減少について、デジタルデバイスアプリケーションの効果について尋ねてきた場合、あなたならどのようにその職員へアドバイスをしますか?その問いに答えるために、我々の研究班では、就労世代の女性の6つの健康関心領域について、デジタルデバイスアプリケーションの効果について、ヘルスケアクエスチョン(HQ、Health Care Question)を設定し、国内外の学術雑誌をシステマティックレビューの手法を用いて検索しました。治療を目的としていないNon-SaMDであること、育児に関しては、介護についても初期段階においてリサーチしましたが、検索時点でデジタルデバイスアプリケーションの研究がほとんどなかったことから、育児のみの表記になっています。また栄養については、プレコンセプションなど就労世代の女性の重要な健康課題ではあるものの、糖尿病患者を対象としたもの、体重、体脂肪率や筋肉量などとのマルチコンポーネントのアプリが多く、今回対象から除いています。また、うつなどのメンタルヘルスについては、AMED事業の榎原班で対応しているため、同じく対象から除いています。

  1. 月経随伴症状(機能性)*
    *子宮や卵巣に明らかな異常がないにもかかわらず、月経期や月経直前に強い腹痛や腰痛、頭痛などの症状が現れる病態
  2. 運動(身体活動・体重管理・座位)
  3. 労働生産性(身体活動の促進及び座位行動の減少による)
  4. 不眠
  5. 禁煙
  6. 育児

 

領域HCQ, Health Care Question
月経随伴症状(機能性) 就労女性に対し、月経中または月経前に出現する身体・精神的症状の緩和のため、デジタルデバイスの健康介入に関してデジタルデバイスは有用か?
運動(身体活動) 労働者(働く女性を含む)に対する【身体活動増加】のため、デジタルデバイスアプリケーションの健康介入は有用か?
運動(体重) 労働者(働く女性を含む)に対する【体重管理】のため、デジタルデバイスアプリケーションの健康介入は有用か?
運動(座位行動) 労働者(働く女性を含む)に対する【座位行動減少】のため、デジタルデバイスアプリケーションの健康介入は有用か?
労働生産性(身体活動の促進及び座位行動の減少による) 労働者(働く女性を含む)に対する身体活動を促進し、座位行動を減少させ、デジタルデバイス介入は仕事に関連した生産性の向上に有用か?
不眠 労働者(働く女性を含む)に対する不眠症状緩和のため、デジタルデバイスアプリケーションの健康介入は有用か?
喫煙 就労女性に対し、「禁煙」のため、デジタルデバイスアプリケーションの健康介入は有用か?
育児あるいは介護 就労女性に対し「育児」のため、デジタルデバイスアプリケーションの健康介入は有用か?

 

 ヘルスケアクエスチョンに対応する形で、推奨案を次の3段階に設定し、研究班内で投票を行い決定しました。

投票にあたって推奨レベル判断基準案(参考)
①  1つ以上のSRやメタアナリシスで有意に効果ありという結果がある。
②  質の良いRCTが5本以上ある。
①、②ともに満たす場合・・・・強い推奨
①、②のどちらか満たす場合・・・・弱い推奨
①  
、②ともに満たさない場合・・・・エビデンス不十分のため判定保留

 これに沿うと、

  • 労働生産性(身体活動の促進及び座位行動の減少による)は、①、②ともに該当しないので、推奨保留
  • 運動は、身体活動・座位行動・体重関連の全てで①基準を満たすが、基準②については、身体活動は7件、座位行動は0件、体重関連は13件ある(2024年7月現在)。
    よって身体活動と体重関連は強い推奨、座位行動は弱い推奨 
  • 不眠症状は、①、②ともに該当するので、強い推奨
  • 喫煙は①のみに該当するので弱い推奨

 となります。

 予防・健康づくりの領域では臨床エビデンスがまだ十分でなく推奨を出せるものが限られると想定されるため、①月経随伴症状(機能性)、⑥育児については、先行研究の数が不足しているため、十分なレビューが行えなかったため、推奨はせず、今後の提案(Future Research Question, FRQ)としてまとめています(FRQは推奨案が出せたものについてもまとめていますのでスライドをご覧ください)。

 この推奨案は、研究班代表者および分担研究者がMINDSのシステマティックレビューに基づいて投票し、決定しました。投票に際し、研究代表者および分担研究者は、日本産業衛生学会のCOI委員会に利益相反の申告を行い、適切に管理されていますことを申し添えます。

 指針を実際に使用するか否かの最終判断は利用者が行うべきものであると考えますが、現時点での皆様の職域の女性労働者の健康管理の一助としてご活用いただければ幸いです。